footballhack: イニエスタのダブルタッチ分析

2013年1月3日

イニエスタのダブルタッチ分析

あけましておめでとうございます。初蹴りも終わって時間を持て余してしまったので、最近頂いた質問にお答えしようと思います。質問とはこれです。

イニエスタのダブルタッチは、なぜあんなにもうまくいくのでしょう。 足の踏み変えは使っていないように見えるのですが・・・ レアル戦でカンナバーロ抜いた瞬間はなんで抜けたんだと不思議に思いました。 教えてください。




で、件のシーンはこれです。



動画内で解説を済ましてしまってるんですが、一応図解で説明してみます。

このシーンでのイニエスタのドリブルには2つのポイントがあります。

  • 瞬間視力とコーディネーション力
  • ドリブル進路のコントロールで相手の重心を操る



  ドリブルにおける視力の高さとは何か

テクニックと視力は高い相関性があります。ここで言う視力とは瞬間視動体視力のことです。サッカーの試合ではまずボールを完璧にコントロールすることが前提条件です。これは反復練習によるものです。その上で、相手を見て判断を下します。このとき、瞬間的に敵の動作を視認する能力が必要になります。これはだれしも持っている能力ですが、一流の選手たちはその精度とスピードが違います。メッシやバルサカンテラの久保くんなんかは卓球がめちゃめちゃ強いというエピソードはあまりにも有名で、このことは良い選手になるには視力の良さが必須だということを示唆しています。

で、どんなときその視力を活かすかというと、上の動画の一番最後の静止画で説明している通り、敵のタックルをかわす時に重要になります。

スタンディングタックルの仕組み 008まず、DFはドリブラーがどのように仕掛けてきてもいいようにニュートラル姿勢を作ります。





スタンディングタックルの仕組み 009そして、ドリブラーのボールコントロールが乱れたり、隙が生まれればタックルを試みます。

このとき、体の重心を前に傾けるには一度後ろへ下がらなければなりません。

これをタックルのための準備動作と呼んでいます。一歩後退する動作のことです。

スタンディングタックルの仕組み 010

このことから、よい守備を行うためには絶えず細かいステップを踏むことが大事だとわかります。敵の隙を逃さず、いつでもタックルへ行ける準備を整えておく必要があるのです。

また、ドリブラー視点に立つと、「DFが一歩下がった時は次に前へ出てタックルを試みる」という訓示を得られます。

一流のドリブラー達は、ボールを完璧にコントロールしつつボールから目を離してDFの足を見ています。重心の偏り(前後左右)を見抜いて適切な技を採用して突破を図っているのです。

これは一例ですが、ドリブルと瞬間視の高い相関性を説明できていると思います。高い瞬間視力によってDFの次の動作へつながるヒントを見抜き、体得したスキルを適切に実行し(コーディネーション力)プレーを成功させているのです。

瞬間視力や動体視力は多分先天的なものなので(スポーツビジョンに関する研究成果が公になっているのであれば知りたいところであります)、ドリブラーと呼ばれる選手たちはタレントとして扱われるのでしょう。例えばバルセロナの中でもシャビやブスケツにはこういった能力はなく、彼らはアタッキングゾーンの中で閃きを必要とするプレーに多少の難があります。

2歩1触でボールから目を離し、DFやその向こうにいる味方を見つける能力は後天的にだれでも練習すれば身につくと思うので、よく練習してください。ミドルサードやビルドアップでのプレー、あるいはパターン思考から導き出される崩しのパスを狙うことはシャビやブスケツが最も得意としているところで、運ぶドリブルとパスフェイクを用いた駆け引きを磨くことで上達するはずです。



  ドリブル進路と重心

次は動画の始めの静止画について解説します。このシーンのポイントはイニエスタのドリブル進路にあります。パスを受けた時、カンナバーロの位置に対してやや右向きにドリブルを開始し、左方向へ弧を描くようにカンナバーロに接近しています。そして、カンナバーロのタックルのための準備動作を起点にダブルタッチを繰り出しています。

イニエスタのドリブル分析 001ドリブルでDFに接近する際は正対するとよいのは周知の事実です。














イニエスタのドリブル分析 002スラロームと言って、スペースを目指して初めから敵を避けているようでは何時まで経っても上達しません。


なぜかというと、スラロームすると最終的にフィジカル勝負になってしまうからです。








イニエスタのドリブル分析 003

足の速い選手や体の強い選手はこれでも突破できますが、そのような選手でも年齢を重ねて上のカテゴリーでプレーするようになると通用しなくなります。

正対を使えないとプレーの選択肢が極端に減ってしまうのです。







だからと言って常に正対できるかというと、そんなことはありません。時にはスラロームをしなければならないこともあるでしょう。

イニエスタのドリブル分析 004そんな時は、弧を描くようにドリブルし正対に持って行きましょう。











イニエスタのドリブル分析 005前進しながら進路を徐々に変えると、DFとしてはどちらにドリブルされるかわからず、静止せざるを得なくなります。

言葉で説明すると、「ほんとにこんなこと起こるのか」って思うでしょうが、実際に体験したら一発で理解できます。






イニエスタのドリブル分析 006DFに接近したら、インサイドかアウトサイドを使って左右に抜きましょう。その時、進入方向と同じ方向に抜けば2ステップになり、逆方向に切り返せば骨盤パニックになります。










スクリーンショット 2013 01 03 20 48 00冒頭のシーンに戻りますが、イニエスタがトラップした瞬間、カンナバーロとの関係性はスラロームでした。







スクリーンショット 2013 01 03 20 48 08そこで、イニエスタは徐々に左に旋回するようにカンナバーロに近づきました。

カンナバーロが見事に棒立ちになっている様子がわかります。




スクリーンショット 2013 01 03 20 48 12カンナバーロがタックルをする素振りを見せた時、ボールタッチしてさらに左に進路を取ります。






スクリーンショット 2013 01 03 20 48 17そして、タックルをダブルタッチでかわすのですが、カンナバーロとしては「思ったより遠いな」と感じたと思います。それはイニエスタが弧を描くように接近してきたことで、ドリブル進路を予測できなかったからです。



スクリーンショット 2013 01 03 20 48 24

ダブルタッチでさらに遠くへボールを運んで、







スクリーンショット 2013 01 03 20 48 32

うまく入れ替わってます スクリーンショット 2013 01 03 20 48 38























イメージ001始めっからスラロームするとDFと不用意に接近し過ぎてしまいます。












スラロームしてるように見せて実は正対している、その逆もしかりで、DFとの距離感を絶妙にコントロールできるのがこの動的正対という考え方です。もちろん成功させるにはたくさん失敗経験を積んで練習しなければなりませんし、タイミングやスピードといった要素が非常に重要になってきます。一度コツを掴んでしまえばあとは自信を持ってスピード化を進めればよいので、とてもチャレンジングな課題になると思います。

イニエスタのドリブル分析 007弧を描いて接近し、DFの目の前で逆方向に切り返すドリブルは丁度その軌跡がひらがなの"て"になるので、ての字ドリブルと呼んでいます。

結構使えるので練習してみてください。

16 件のコメント:

  1. ありがとうございます。試合で使えるよう練習します。

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  2. こんばんわ
    2度目の投稿となります。

    ”ドリブルにおける視力の高さ”ということですが、つまりは判断力の速さともいえますか?
    ボールを持っている状態では、選択肢としては主に、ドリブル、パス、シュートの3つがあると思います。この3つの中で、ゴールに一番近づくためのその状況での最も良い選択を選べる力。
    自分ではこれをインテリジェンス能力(判断力)と呼んでいるんですが・・
    そして、この判断力という力の世界一はセスク・ファブレガスだと思っています。
    彼は、足がもう少し早ければさらに偉大な選手なんだろうなと。
    一番ききたいのは、セスクのように常にボールを持ったときにDFと正対の状態で効果的なプレイを選べる”技術”とは何なのか?ということです。

    今、子供には常に正対の状態で選択肢を1つではなく2つはもち、プレイした後その判断はどうだったのかということを子供たちと話し合うという感じです。

    長文ですが、読んでくださってありがとうございます。

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  3. 連投すいません・・

    Q 一番ききたいのは、セスクのように常にボールを持ったときにDFと正対の状態で効果的なプレイを選べる”技術”とは何なのか?ということです。
    A ”セスクのドリブル ボールタッチと視野の確保 ”の記事が答えだといわれそうだったので、追記します。

    というか質問が下手くそですいません。
    視野の確保の仕方は上の記事で理解でき、僕自身も納得しています。
    聞きたいところは、視野の確保で選択肢を複数個持ったうえで、その次に決定を下す判断力の速さ、この技術とはどういったものなのかをききたくて・・。
    選択肢は見るものであり、判断力は選択肢を選ぶ。この選ぶっていうことの技術で伝わるでしょうか?

    管理者さん、時間があればでいいのでお願いします。

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    1. なんかむずかしいですね。瞬間視が優れていれば、相手の隙を突くことが出来るので、結果的に正しい判断が下せる、とは言えそうですが。

      結局、「判断力」という言葉の捉え方の問題かもしれません。判断は“速く”が常識ですが、僕は“深く”が正しいと思います。2手先、3手先を考えられるか、そのためのプレーの可能性を残すことができるかが大事だと思います。

      正対は深い判断のために必須であり、というより正対をしなければ深く考えられない、つまり正対を極めていけば自ずと良い判断を下すスピードが上がっていくんだろうと。駆け引きの積み上げ、一言で言うと経験ですね。

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    2. はやい返答ありがとうございます
      判断は深く・・新しい着眼点でした。
      いろいろな経験をつませることが大事だと同じように思うので、試行錯誤しながらやりたいと思います。

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  4. 質問です。準備動作の時、右足を下げたら、左足でタックルしに行くのでしょうか。
    それとも右足でタックルしに行くのでしょうか。
    決まっていないなら判断基準を教えて下さい。

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    1. どちらもありえます。下手な選手の場合、下げた足と違う足でタックルすることしか出来ませんが、上手な選手は下げた足と同じ足でもタックルできます。あとは利き足を使う確率がやはり高いのでそのへんを考えて行けばよいでしょう。実際には論理的な説明を超越してくるので、たくさん経験を積むしかなさそうです。

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    2. やはり感覚を覚えるしかないのですね。ありがとうございます。

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  5. 軸足の2度付きはスピードのある状態でやるのでしょうか。
    メッシはしたりしなかったりですが・・・

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    1. すいません、説明不足でした。2度付きをしてから2ステップをしたりすることです。

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    2. メッシの動画3で紹介している動画をよーく見てください。2ステップ最中に2度着きします。
      あとは蹴球計画の浮きついての記事をよく読み返してみてください。

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    3. ありがおうございます

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    4. メッシの動画2でした。

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  6. 質問です。
    足にくっついたメッシのドリブルというのは(まあメッシレベルは無理ですが)中学から始めた自分でも練習すれば可能なのでしょうか?
    ダブルタッチとは関係ないですができればお願いします。

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    1. 可能です。大事なのはあしにくっついているかではなく、判断を伴えるかです。無意識にドリブルしながら敵の逆をとることさえ出来ればタッチの柔らかさは関係ありません。そういうドリブルはおとなになってからでも出来ると思います。

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  7. 素早い回答ありがとうございます。
    これからは相手の逆を意識してドリブルしたいです。

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