footballhack: いなすトラップ1 シャビによるジダントラップ(回転)

2011年11月30日

いなすトラップ1 シャビによるジダントラップ(回転)

いなすトラップの基本は掴めたでしょうか。受け場に敵を誘い込んでから止め場をずらしてやるといなしが上手くいきます。では、実際にワールドクラスの選手たちはいなすトラップをどのように行なっているのか、見て行きましょう。

第一回目はジダントラップです。(また勝手に命名しちゃいました。) ジダントラップとはなんぞやという方は下の動画を御覧ください。5:56と7:14にジダントラップが登場します。




ジダントラップとはつまり、奥の足を使ってターンすると見せかけて、ボールを逆方向へ弾き、DFの逆を取るトラップです。

ジダンはトラップの名手でもあったんですが、彼のすごさは、時には自分に引き寄せるように、時には相手から遠のくように、cm単位でボールをコントロールして、常に直近の敵と駆け引きをしていた点です。

これと同じ種類のトラップを多用するのがバルセロナの心臓であるシャビ・エルナンデス。
では実際の試合の映像からこのジダントラップが使われるシーンを取り出して見てみましょう。


左図ではバルセロナは右から左に攻めており、水色の丸で囲ったのがシャビです。緑の丸はDFをしてしています。

ここで、白線が示すように、斜め後方からシャビに向かってパスが放たれます。


この時、DFはシャビが右足(パサーから見て奥の足)でコントロールし、ターンを試みると予測しました。なので、水色の円をめがけてアプローチを掛けます。

ですが、当然これはシャビの誘いです。ニュートラルな姿勢を作ってパスを待つことで、DFに余計な情報を与えずに、シンプルな行動予測を立てさせることが出来ます。 また、トラップ後に素早く移動できるようになります。
DFの予測通り、シャビは右足でボールをコントロールしています。

ここまで、DFは完全に騙されていて、更に加速し、当初の目標地点へアプローチを掛けます。

そこで、シャビは水色矢印が示すように、パスが来た方向へとボールを弾くようにトラップすることで、「いなし」を試みます。
トラップ直後の様子。DFは止まろうとはしているものの、加速した分だけ、減速とストップに時間がかかってしまいます。
完全に入れ替わることが出来ました。シャビのプレー方向とDFの運動ベクトルが全く逆を向いています。
これによって、トラップの瞬間よりも2人の距離が離れた状態を作り出すことが出来ました。

DFから離れてプレーすることは非常に大事で、これにより長距離のキックや、状況確認などに使える時間を確保できます。








次のシーンは真横からパスを受けるシーンです。

パスを受けるのがシャビ、DFはモッタでしょうか。

DFがアプローチをかける時、最初の目標はパスの受け手本体です。つまり、人間という大まかな目標に向かって走りだす場合がほとんどでしょう。

 DFが受け手に近づくにつれ、足元なのかスペースなのか、目標地点を絞っていきます。ボールの移動中にパスの受け手は様々な反応を見せますから、それをよく観察することで、次のプレーの意図を察知することができるのです。
シャビはニュートラルな姿勢から前を向いてコントロールしました。

この姿勢を見たモッタは白円に向かってアプローチを掛けます。
しかし、先程と同様、シャビはボールをパスの進行方向とは逆向きに弾くようにトラップしました。

これによって、モッタが狙うべきポイントが回転し、ズレてしまいました。
またもや完全に逆を取っています。

このトラップのコツはボールの側面を踏むようにコントロールし、ボールに逆回転を与えることでボールが体から離れすぎないようにすることです。また、ボールを踏むことは地面を踏むことと同義なので、よりスムーズな重心移動にもつながります。この辺のことは蹴球計画さんに詳しいので是非そちらを参照に。
モッタはシャビの前に出たいのですが、並走するのが精一杯。うまく出し抜かれた格好です。

完全に抜き切ることはできませんでしたが、動画を見ていただければ分かる通り、このあとシャビはもうワンフェイク入れてモッタを抜き去ります。一連のプレーが成功したのは、初めにシャビがトラップでのいなしによって先手を打ったことに起因します。





ついでにですが、上の連続写真の2枚目と3枚目の間の写真から、シャビがこのトラップでなぜモッタを抜ききれなかったのかを解説します。
左の写真はシャビが左足でトラップした後、左足を接地した瞬間のものです。

上体が伸びきり、重心がやや後方に残っています。これは次に加速するために足を重心より後方に接地しなければならないためです。
これは右足を踏み出すところ。

左足の接地位置と比べて右足はほとんど前へ出ていません。

こちらは右足でドリブルを開始する直前のものです。

ここからようやく加速に入れます。証左に上体が前傾していますね。

結論を言うと、シャビがトラップで抜き切れないのは、ボールを止めてから加速する間の2歩 にあります。




例えばメッシならボールを止めて、止めた足を置いて、その足で加速に入れます。なぜシャビがこれをできないかというと、トラップの瞬間に上体が立っているからです。加速をするには足を後方へ接地しなければなりませんから、メッシのように初めから前傾姿勢を作っておくほうが素早く加速姿勢に移行できるのです。(常に前傾姿勢でプレーすればよいとは言っていません)

だからといって、シャビを責めているのではなく、シャビは中盤の選手でメッシは攻撃の選手なのです。ですから、求められるプレーの質も成功率もリスクも異なります。シャビがメッシのようにプレーしていたら中盤でボールを簡単に失う悪い選手という烙印を押される可能性があります。

また、上体を立てたままプレーすることにも意義があるのです。ニュートラル姿勢を保つことは、前後左右様々な方向へのプレー可能性が広げることになります。

まとめますと、ジダントラップの手順は
  1. ニュートラル姿勢でパスを待つ
  2. 奥の足でターンする素振りをして受け場を作る
  3. ボールを弾くようにトラップし、止め場をズラす
  4. ボールの確保、加速のいずれかのプレーにつなげて、DFと十分に距離を取る
以上のことに気をつけて練習すれば、パスを受けるときのオプションを一つ増やせると思います。


上記の写真は全て以下の動画から拝借しました。




次→いなすトラップ2 回転

4 件のコメント:

  1. 初めてサイトを訪れました。
    自分の中でずっとモヤモヤしていた技術が実に論理的に分析されていて目から鱗の連続でした。

    一つ質問させて下さい。

    シャビがターン中によく軸足でジャンプ(両足ジャンプ?スキップ?)しているのに気付きました。
    http://www.youtube.com/watch?v=KV7p6zsyBhE
    の25秒あたりです。

    この技術が気になって真似しようとしているのですがまったくしっくりいきません。
    この動作の意味とコツなど教えて頂けたら嬉しいです。

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  2. 中2のサッカー部です。ブログいつも見てます!
    特にメッシ選手のドリブルについての記事は、よく研究されていてすごいなぁと思います!

    ドリブルの質問なんですが、足にくっついてるようなボールタッチはどうしたらうまくなるでしょうか??
    直線ドリブルの時はニ歩一触を参考にしてドリブルしています。
    でもジグザグドリブルだったり横に曲がったりするとき足から少し離れてしまいます。
    家の中もでボールを触ってたりと、ボールと一緒に生活したら、うまくなるでしょうか??
    突然ですがよろしくお願いします。

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  3. @ほげおさん コメントどうもありがとうございます。シャビのスキップ動作については「スキップドリブルドリル」に書きましたのでそちらを参考にしてください。また、この記事の中の蹴球計画さんのリンクにおいてこの「両足とび」という技について詳細な解説があるのでそちらも読んでみてください。

    件の動画の軸足二度着きに関しましては、これには重心を内側に傾ける効果があると思われます。シャビの多用するこのドリブルは「マタドールターン」という記事で紹介したとおり、2歩1触で旋回する技です。このときスキップを入れるような感じで軸足を飛ばし、重心より外側に接地すると、自然と体が内側に傾き、より鋭角なターンが出来るようになります。ただし常にスキップを入れればいいというわけではなく、この場合はDFが十分に外側に(シャビの背後に)位置していたのでより鋭角に曲がったほうが距離を取れるというシャビの判断があったものだろうと思います。

    また、一般的に言えるのは、スキップ動作や軸足の2度着きをドリブル最中に入れることにはリズムを変化させ、DFの重心の逆をとる効能があるということです。詳しくは「メッシのドリブル 独特のリズム」「音楽、リズム、ドリブル」「同調、リズム、ドリブル」を御覧ください。

    近々、DFの重心を外すことに関して記事を書いていく予定ですので、それまでお待ちください。今後もよろしくお願いします。

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  4. @しゅんさん コメントどうもありがとうございます。
    ジグザグや直角移動の2歩1触は直線、旋回の次の段階に位置していると認識しており、かなり難易度の高い動作になると思います。基本的には旋回を自由にこなせるようになってから挑戦するのが良いと思われます。

    同じような質問をいくつか受けているので、2歩1触の練習方法について近々記事を書きたいと思います。

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